大河道 雷刃の雑想録

「評論家の言うことを信じてはいけない。何故なら評論家が讃えられて彫像が作られた事など一度もないのだから」 ジャン・シベリウス(作曲家)

追悼・小松政夫

コメディアンで俳優の小松政夫さんが12月7日に世を去られました。今回は自分なりの思い出深い作品を振り返ってみようかと思います。

まずは新必殺仕置人十六話「密告無用」より。

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冒頭、何処からか調子の良い声が聴こえてくると声の主はかって主水の下っ引きだった亀吉。
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どこからか持ってきた長椅子にヒョイと上がって「物干音頭」を熱唱。これはご自身が出された「デンセンマンの電線音頭」のパロディでしょうね。

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そこを主水に足を払われてズデンと転倒。「下らねえ事をしやがって、後で来い!油を絞ってやる」と一喝。
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「偉そうに。後で言いつけてやる!」

新必殺仕置人はシリーズ10作目の節目というのもあってか、この前の回に暗闇仕留人の妙心尼(三島ゆり子)がなりませぬのフレーズと共に登場してファンサービスの赴きを感じます。
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続いては影の軍団Ⅱ三話「戦慄!いけにえの館」より。
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ここでの小松さんの役は新発田班藩主・溝口真葉。家老平沼多十郎(南原宏治)の「備えあれば憂い無し」の言葉に乗せられるがままに南蛮渡来のガトリング砲を買おうとします。この家老平沼、実はシリーズを通しての宿敵である闇将軍大岡忠光(成田三樹夫)二十六人衆の一人。その大岡の命によって新発田藩を内から潰す指令を受けています。
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それを諌めようとした勘定方梶山九郎太(鈴木瑞穂)は藩主の眼前で切腹を命じられ、娘の千恵(佐藤万里)はガトリング砲を持ってきた南蛮人の慰み者になる所を互いにほのかな思いを寄せていたはやて小僧(真田広之)に救われます。そこに新八(千葉真一)たち影の軍団が登場、事の真相を藩主に告げて平沼一味を成敗。
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梶山の忠義にようやく気づいた藩主は涙ながらに詫びます。しかしこの一件が公儀に知られると新発田藩の取り潰しは必定、この場で影の軍団以外に真実を知っているのは殿と自分のみ。ならばと梶山はその場で髷を斬り落とし今日限りで武士を捨て、娘と共に江戸を去ります。

この藩主、人物としては典型的な世間知らずの殿様で、無邪気に女中達にガトリング砲を向け空回ししてはしゃいでいる姿は無知・無能を一目で見ている側が理解できる人物像でした。そういう人物だからこそ梶山の高潔な人物像が際立ったのではとも思います。

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これはもしかしたら珍しいかもしれない二時間ドラマの出演、火曜サスペンス劇場の人気シリーズ刑事鬼貫八郎の中の一作「沈黙の函」。
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小松さんはレコード店店主・茨木辰二役。貴重なレコードのオークションの最中、店に宅配便で生首が届くというショッキングな開幕。
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その生首の身元は茨木の息子・周一(阿部サダヲ)。茨木の息子への深い愛を感じる鬼貫ですが、茨木と周一は実の親子ではないことが解ると少しずつ真相が明らかになっていきます。
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周一を殺したのは茨木だった。周一の絶縁の言葉を聞いた茨木が周一を刺して雨のなか路上で茫然自失となっている所を知人の芸人が協力して別の場所で死体の胴と首を切り離しせめて首だけでも手元に置いてあげたかった、とここまでの流れを話しているのは芸人。茨木は虚ろな目をしたまま黙っています。話が終わるとおもむろに立ち上がりもうすぐ周一が帰ってくるんです、とミキサーに向かって延々と「周一が帰ってくるから野菜ジュース、周一が帰ってくるから野菜ジュース...」とつぶやき続けます。

二人が連行された帰途、鬼貫は同僚の碓氷に
「なあ碓氷君、純愛という言葉から人は何を想像するのかねぇ」

「そりゃあ、若い男女でしょうね」

「中年の男が息子のような男に恋をすることもあるんだねぇ。生活に追われ、事件に追われ続けている我々にはそこが中々見えんかった。あの人の、あの一途さが」

義父と養子との親子愛が壊れた話と思いきや性別や年齢を超えた愛が壊れたという真実。正直ラスト近くのミキサーを見つめる表情には狂気すら感じました。

しかし亡くなられたのに不思議と寂しさを感じさせないんですよねぇ。本当にありがとうございました、合掌。

本日、ここまで。

(文中一部敬称略)