大河道 雷刃の雑想録

「評論家の言うことを信じてはいけない。何故なら評論家が讃えられて彫像が作られた事など一度もないのだから」 ジャン・シベリウス(作曲家)

刑事くん・カッコいい生き方


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「刑事くん」は基本拳銃を撃たない人間ドラマ。しかしこの「風船とライフル」は珍しく銃器がしっかり出てくるので思わず一筆。この回のゲストは岡山から空き巣や窃盗をしながら東京にやって来た謙作(火野正平)と美津子(山川レイカ)。
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画面に映るのは十四年式自動拳銃(後期型)とM14風のライフル(劇中ではM15の32口径ボルトアクションと説明)。物語としては「俺たちに明日はない」のように無軌道に犯罪を重ね最期は破滅に向かうカップルを描く...のですが「刑事くん」では破滅まで踏み込めないのがいい意味での限界。

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劇中この二人が起こした犯罪はスナックでの飲み食いの踏み倒しと人気俳優からサインをもらうために私邸に上がり込み銃を突き付けサインをねだる事。鉄男(桜木健一)たちが乗り込み、美津子を捕らえるも謙作は取り逃がす。

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取調で美津子は謙作の行動の全ては自分にカッコ良く見られたい為で、私の前でカッコ良く死ねるならそれも厭わない人と話す。あの人は一人だと何も出来ないと美津子に言われた謙作は案の定ヤケを起こし、ライフルを往来で乱射してやると警察に電話を入れる。謙作を止める為には美津子を連れていくしかないと思った鉄男は無断で美津子を連れて謙作のいる場所へ向かい説得を試みるが美津子が鉄男は刑事だと叫び、謙作はライフルで鉄男を追い詰める。

謙作「あんた自分がやられるんだぜ?撃たなきゃ」

鉄男「撃ちたきゃ撃てよ」

謙作「あんた、自分の体に鉛弾ぶちこまれたことがないんだろ?」

鉄男「あんな経験は二度とごめん被りたいと思ったね。死んだ方がマシだと思った位だ」

謙作「大人しく撃たれてもいいのかよ。ピストル持ってるんだろ?」

鉄男「持ってない」

謙作「バカバカしい。何で先にそれを言わねえんだよ。別の所に行くか、一歩でも動くなよ」

鉄男「動けつったって、動けないさ。これじゃあな」

崩れ落ちた鉄男のスーツの下の脇腹に血が滲んでいる。

鉄男「カッコよく生きたいのは、刑事だって同じさ」

謙作「やめたやめた!アホらしい、一人でカッコいいんだもんな」

ライフルを放る謙作、そして謙作と美津子は鉄男を背負って署に現れる。

謙作「逮捕されたぞ、この刑事に」

上げた二人の手首には手錠が光っている。

何だかいつの間にかシナリオ再録のような感じになってしまった(笑)。M14と十四年式自動拳銃が出た事ををただ書くつもりだったのに。70年代の「カッコよさ」と現代の「カッコよさ」は明らかに違うんでしょうね。カッコよく生きようとして生きられない若者っていうのはだいたい同時期の「傷だらけの天使」にも通じる物を感じます。この脚本もどちらも手掛けた市川森一さん。タイトルにある「風船」はもしかしたらそういう漂う事しか知らない青春の形の暗喩なのでしょうか。刑事くんはよく30分で事件を解決する、なんてネタにされていますがどっこいドラマの密度は昨今の一時間ドラマに負けていないのではとも思ったりします。本日、ここまで。